Vol.5 ビンテージ家具とBlackboard
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スタッフ:茨城県つくば市にある姉妹店「Blackboard」はビンテージ家具ショップですが、アンティーク家具やビンテージ家具を扱う”専門ショップ”を立ち上げることになった、きっかけは何かあったのでしょうか?
(島田)むかし旅したイギリスで、蚤の市やお店を見て回っている時に買ったものを日本に持ち帰ったりしていたんですが、そういうことを何回か繰り返しているうちに買い物の量も増えていくんですよ。
それで「これどうやって持って帰る?」となっていた時に、周りで買付している人たちの姿を見て「なるほど、そうすれば良いのか!」と、現地で色々と買付や仕入れの仕方を学びました。それが本格的にビンテージ家具を扱う最初のステップでしたね。
アンティーク家具もビンテージ家具も、同じ年代にたくさん作られたものだったとしても、それぞれ違う表情を持っているものなんです。
例えば、一人が長く使ってきたか、何人かの手を渡ってきたかによって、家具から滲み出てくるオーラのようなものが変わってくるんです。『この椅子は一人のオーナーさんとずっと何十年も共に過ごしていたんだろうな…』、ということや『このチェストは20年ぐらいで手放されて、別の誰かの手に渡って5年くらい使われてきたのかな…』という感じで。面白いもので、何人かの手を渡ってきたような家具は、そのものが放つオーラみたいなものがちょっと濁ってくるんですよ。
どんな歴史を歩んできたのかな、と考えながら見るのがビンテージ家具の本当の面白さかもしれませんね。ただ古ければいいというものではないし、古いから何でもかんでも綺麗にメンテナンスすればいいということではないんです。古いものには古い良さがあるし、くたびれた状態の方が、その家具の良さが引き立つものもありますから。
自分の家具とは対話していくような感覚や関係になっていけたらいいですよね。そいつがいるから、あの椅子があるから自分の家、という感覚になるみたいな。
どんなにかっこいいホテルに泊まったとしても、何となく落ち着かない、なんか気が休まらない、そういう感覚は、そこに自分の仲間がいないからじゃないかと思うんですよ。仲間と思えるものと共に暮らすからこそ、そこに自分の核が生まれてくるんじゃないかと思うんです。生活環境そのものが人やモノに与える影響は想像するよりはるかに大きいですからね。
北欧やイギリスのビンテージ家具を扱うつくばのブラックボードでは、自分たちが今まで経験した海外の原体験みたいなものを表現して、何か伝わるものがあればいいと思って作りました。
その場所や店が持つ空気感ってあるじゃないですか。『何かわかんないけど、この店かっこいいよね』みたいな感覚的なところ。
フェイクで作ったものでも一瞬は『素敵』ってなるかもしれないけど、1・2回来れば十分、みたいになってしまうんですよ。本物だけが持つ空気感や醸し出す雰囲気、そこにはちゃんと作為的な仕込みをしているから、うまくハマっているはずです。
(幾子)素材が本物か本物じゃないか、そういう違いによって差が出ますよね。
(島田)たとえ微弱な電波だったとしても、僕らが発信するメッセージは伝わる人には伝わると思っています。そう信じて、ブラックボードには『何かかっこいいよね』と思ってもらえるメッセージをちゃんと散りばめているんです。
(幾子)私たちのメッセージは、リアルな部分で伝えていることがほとんどです。今の時代はメタバースとかバーチャルリアリティとかで疑似体験できるものがたくさんありますけど、その土地や場所、空間や家具が放つ空気感や肌感のように感覚的な部分は、デジタルな疑似体験の中では感じ取るのが難しい気がしています。だから、小さい頃からいろんなものに触れたり、本物の素材を知ったり体験して、土壌を持っていれば、大人になってもそういった感覚がまた呼び覚まされてくるのではないかと思います。
生活環境、育った環境、住まう環境、場所もそうだし、道具的なものとかも大切に考えていくこと、それを小さい頃に触れさせてあげることは感覚的なことを養えるのでとても大切ですよね。
(島田)大人になってからそういた感覚的な部分を磨こうとしてもなかなか難しいものですよね。大人は結局、頭で理解しようとするから。だからといって、それが駄目ということではないんです。もっと興味を持って物事を見ることで分かる面白さもあるでしょう。それで知識に奥行きが生まれて、暮らしやライフスタイルに反映されてくると思うんです。絵画やアートを鑑賞したり、どこかにでかけて建物を見たりすることで、世界が広がるし可能性も生まれたりするように。
家具は私たちにとって道具の一つですが、ただ道具として扱うのではなく、生活空間に置かれることで初めて活きるものだと思うんです。だから、この家具ならどんな空間に合うか、この空間ならどんな家具が似合うか、といった両方からの見方が備わってはじめて、道具として活かされるところはありますよね。いろんな角度から物事を見ることで気付ける何かがあるはずなんです。
今回で最後となった代表島田夫妻へのインタビュー。いかがでしたでしょうか。
私たちスタッフも普段の仕事の中ではなかなか聞くことのできない、カーフとブラックボードに脈々と流れるお二人の古いものへのリスペクトがひしひしと感じられました。いくら時代が進歩しても様々な技術が進化したとしても、忘れてはいけないことや残していくべきモノやコトは必ずあるはずです。自分なりのそういったものをいつまでも大切にしていきたいと思いました。
またいつか、このような形でインタビューをご紹介できたらと思っていますので、楽しみにしていてください。
「karf History 〜カーフスタイルができるまで〜」
Vol.1 1980年代 創業と初期のオリジナル家具
Vol.2 1990年代 北欧スタイルへ
Vol.3 普遍であること
Vol.4 デジタル時代のモノづくりに思うこと
Vol.5 ビンテージ家具とBlackboard